「映画検定、なんだそれ?」
2000年代の半ばから後半にかけて「検定ブーム」というのがあった。英語検定など歴史ある定番のものばかりでなく、各種・実務技能検定、ご当地検定、趣味の世界で狭く深い範囲の知識を競うオタク・カルト系検定、社会・文化・歴史・環境などの分野の検定等々・・・こんなものにまで検定があるのか!と、たじろぐほどの種類があったと記憶している。実はその頃、私も検定にハマっていたのである。一つは「落語検定」。これはテキストを買って読んで満足してしまったので、実際に検定試験は受けていない。しかし、これがきっかけで落語の楽しみ方に幅が出て、生で落語を聴きに行く機会がかなり増えた。
そしてもう一つが「映画検定」である。
映画検定の存在を知ったのは、2006年6月末に本屋で立ち読みをしているときであった。映画関連の本の中に、「映画検定・公式テキストブック」なるものを見つけた。
「映画検定・・・何だそれ?」
老舗・キネマ旬報が主催し、「映画をより楽しむための腕試し道場のようなもの」として発案された検定試験、それが「映画検定」である。当時は、若者の映画業界への就職にも役立つ試験とか、中高年の高尚な暇つぶしとか、言われていた。「映画オタク」を自認する私も「面白いんじゃないですかぁ」と右側の眉がピクピクと上がったわけである。立ち読みを進めていくと、第一回目の試験は・・・2006年6月25日・・・何?明日じゃないか!ダメだこりゃ、申し込みすらできない。仕方ない、第二回目は・・・半年後の12月3日、札幌でも試験が開催されるぞ、よし、これに照準を合わせよう!公式テキストブックと公式問題集を即買いし、そのシステムの詳細を調べ始めた。
試験は1級から4級まであり、初心者想定の4級から順に難易度が上がっていく。2級まではどの級からでも受験でき、複数の級を同時に受験することができるが、1級試験は2級の合格者でなければ受験できないシステムである。ということは、第一回目の試験では1級は開催されなかったのである。なるほど、だから問題集に1級の模擬問題は載っていないのだ。2~4級はすべてマークシート選択式問題で60点満点で70%正解率で合格となる。まっさらな状態で、模擬問題をやってみる。4級レベルは簡単に感じた。3級は知らない項目も散見された。2級はさすがに歯ごたえ充分で、全く判らない分野や多少は知っていても自信のない領域が多々あることを実感した。よし、2級と3級を受験しよう。さっそく願書を出して、試験勉強を開始した。
試験で問われる内容は実に多岐にわたっている。映画作品の内容や監督、俳優にまつわる事項はもちろんのこと、映画の歴史・製作技術、映画にまつわる音楽や文学、映画ビジネス、映画のジャンル・作風・手法、さらに映画各賞と映画祭の流れ、諸々の映画雑学など。そして主宰者であるキネマ旬報ベスト10と各賞の歴史。これまで「試験」という名のものは幾度も経験してきたが、大体は「仕方ないから勉強して、受験するもの」だった。しかし今回の試験勉強は興味あるものを深掘りするわけだから、毎晩テキストを開くのが楽しいったら、ありゃしないのである。当時、私は40代半ばの働き盛りの歯科医であり、「そんなことやっていていいのか、オイ?!」と一人突っ込みを入れたくもなったが、そんなときは脳内の「バカボンのパパ」がこう宣言するのであった。
「これでいいのだ!」
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私が初めて受験した第二回映画検定試験の札幌会場は、札幌ではなく恵庭の文教大学であった。JR恵庭駅から徒歩にて会場に向かう十数分は、すこぶる寒かった。路面が氷り、吐く息は真っ白、おそらく一日中氷点下の気温だったのではないか。会場が大学の教室ということもあって、久々に大学受験時のような緊張が蘇ってきた。午前に3級の試験、引き続き午後から2級の試験を受けた。3級は合格の手応え充分だったが、2級は自信のない問題がかなりあった。それでも日曜日を潰して寒い中、恵庭まで受験にやってきた甲斐はあったと感じた。後は結果を待つだけである。
数週間後に結果が知らされた。どちらも合格であった。ネットにて発表された合否判定・採点結果・全国順位などをみると、3級は最高点(複数獲得者の中の一人)で、2級は9番目の好成績であった。「おっと、なかなかやるじゃん、俺」と思ってしまった。今回初めて行われた1級試験で出題された問題の内容を見ると、模擬問題集に掲載されていた内容にかなり類似した問題が多く、予想より簡単な印象をもった。何より下表に示すように、合格率が92%なのだ。要は、第一回試験で2級合格の人たちのほとんどが、1級試験に合格していたのである。
ここで私は「よしよし、次に出る公式問題集をみっちり勉強すれば、次回は1級合格できるな。」と考えたのである。まあ、はっきり言ってしまえば、1級試験を舐めてしまったのである。
嗚呼、それが間違いのはじまりであった・・・。
半年後、第三回の映画検定試験を前に、しっかり公式問題集を勉強した。1級では20点分の記述問題が追加され80点満点の70%正解率で合格となる。この記述問題対策で、何十字以内で回答を書く練習も行った。準備万端の気分で試験に臨んだ。
結果・・・完全なる撃沈!自己採点で4割も取れなかった。試験直後は呆然として足がよろけていたかもしれない。こんな感覚は現役での大学受験、北大歯学部の二次試験で壊滅的に失敗した時以来であった。そのとき突然、脳内で夏目雅子扮する鬼龍院花子が啖呵を切った。
「舐めたらイカンぜよぉ!」
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撃沈した要因を考察するに、
1)出題された問題が格段に難しくなった。
2)浅く広い知識では対応できない問題が多かった。
そして、これが私にとって最大の要因だと認識したのだが・・
3)私は、邦画を観ないで、大人になった。
そうなのだ!私は邦画をほとんど観ないのだ!私が映画を本格的に観だした1970年代は、日本映画がまさに斜陽の時代であった。映画小僧にとって魅力あるのは洋画であり、邦画は全くといって良いほど眼中になかった。それでも「寅さん」シリーズは半分ぐらいは観ていたし、黒澤明はマストアイテムだった。ATG映画も怖いもの観たさで、何本かは観ていた。しかし邦画の鑑賞は年間3~4本が良いところであり、その傾向は今も尚続いている。検定試験の半分は邦画から出題されるので、そこがアキレス腱になっていた。じゃあ、次回は邦画をガッチリ勉強しよう!ということになった。あまり興味の無い邦画やかなり古い時代の洋画でもTV放映されればハードディスクに録画し、試験に出る可能性があれば積極的に観る時間を作った。各方面の知識も深掘りして調べるように努力した。ところが、こういう勉強はだんだん面白くなくなってくるのである。知識のための知識、試験のための勉強、どの方向から出題されるか考えながら観る映画・・・これは全く本末転倒なのである。案の定、第4回映画検定でも5割程度(自己採点)で不合格、第5回でも6割程度(自己採点)で不合格となった。1級試験3浪のまま,時は流れ、やがて札幌での試験開催がなくなってしまい、私は受験しなくなった。その後、検定ブームも去り,映画検定もフェイドアウトしていき、開催されなくなっていった。
それから6~7年経った2019年、映画検定復活!の知らせが舞い込んできた。キネマ旬報創刊100周年を記念して復活開催となったわけである。試験内容も進化していた。2~4級はWEB受験となり、約3週間の試験期間に何度でもチャレンジできるシステムとなった。しかし1級の試験だけは、2020年2月11日の決められた時間に会場試験とWEB試験が同時に行われる事になっていた。うむっ!と私の右側の眉が再びピクピクと上がりかけたが、同年1月の下旬には持病治療のため入院加療が決まっていたので断念することとなった。その後も検定試験は継続されるのかと思いきや、新型コロナ感染症の影響で開催されぬまま現在に至っている。
「仕事はね、結果を問われるものだけど、趣味の結果をどうこう言うのは野暮でがす。」とかなんとか言いながら、なんとなく鰻の小骨がノドに刺さったような感覚が残っているのも事実。いつの日か、ノドに刺さった小骨を取り除くチャンスが来るかもしれない。いや、取り除くのではなく、ご飯と一緒に飲み込んで消化吸収してしまう日がやって来るんじゃないかな、と思うのだ。
以上が私の映画検定話の顛末である。
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私が受けた最後の検定試験で1級3浪が確定してから、かれこれ15年が過ぎた。時代は移りゆき、映画は「作品」ではなく「コンテンツ」となり、いつでもどこでもアクセスできるサブスク全盛を迎えている。最近の若者は映画を深掘りするどころか、早送りで観ているそうだ。嗚呼、そんな時代になってしまった。そして今、私の脳内で、武田鉄矢が呟いている。
「思えば遠くへ来たもんだ」と。
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by nikikai_sapporo
| 2023-05-03 10:55
| Dr.門脇 繁