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歯科医師が綴るコラム集やお知らせなど【二期会歯科クリニック】札幌市中央区北3条西2丁目 NC北専北3条ビル8F/TEL:011-251-2220


by nikikai_sapporo
「不正咬合もろもろと習癖」

 矯正歯科を担当しています正木です。
 当二期会歯科クリニックは開設以来四半世紀が経過しようとしています。当初10年間ほど、不正咬合を訴えて矯正歯科を受診する患者さんの内訳は大雑把に言って5割が反対咬合(うけ口)で、4割が叢生(乱ぐい歯)、1割が上顎前突(出っ歯)でした。しかし、その比率が徐々に変化し、最近では反対咬合が3割弱、上顎前突が3割で、叢生が4割となっています。この原因がどこにあるのかは判然としません。

 様々な医療情報を簡単に得やすくなった環境により患者さんの意識レベルが変化したことも影響していると思われますが、一説には、反対咬合は誰の目にも判定しやすい不正咬合であり、近年矯正歯科診療所が各地で増加したことで、一番目に付きやすい反対咬合の患者さんが数多く治療を受けている結果、一診療所あたりの反対咬合の比率が減少したのではないか、とも言われています。確かに25年前10軒であった札幌市内の矯正単科開業の診療所は、現在32軒と増加していますし、更に矯正歯科を標榜する歯科診療所もかなり増えていますので、一理あるかもしれません。

 この25年間に変化した今一つは、患者さんの年齢比率です。小学生から高校生までの成長期にある子供が圧倒的に多く、二十歳以上の成人は1割未満だったのが、今は小学生が2.5割、中・高生が4割、成人が3.5割となっています。日本の経済発展を背景に矯正歯科治療そのものが一般に普及したことに加え、使用する装置の審美的改良等により成人が昔に比べて大きな抵抗を感じることなく治療を受け入れられる環境になったこと、さらに8020運動に代表される日本歯科医師会の啓蒙活動や日本臨床矯正歯科医会(http://www.orthod.or.jp/)による「スマイルコンテスト」といった矯正歯科治療の普及活動などが、理由に挙げられるでしょう。

 女子マラソンの土佐選手が歯にブレース(ブラケット)を装着して国内レースで優勝した姿は記憶に新しいですね。もう既に治療は終了し、今は保定中(後戻りしないように観察)とのことです。過去には陸上競技のカール・ルイスやテニスのシャラポアも矯正治療をしていました。このようにマスコミに矯正治療中の著名人が登場することは好ましいことです。健康な歯、歯肉(歯ぐき)と骨であれば、治療期間は別として、年齢に関係なく矯正治療は可能です。チョットおかしいなと感じたら是非矯正歯科認定医や専門医(http://www.jos.gr.jp/search/index.html)を受診しましょう。

 来院される患者さんを拝見していますと色々な不良習癖(くせ)を持っていて、それが原因と思われる顎のゆがみや咬み合わせの異常を伴った不正咬合を目にします。例えば長期間にわたる頬杖癖は下あごの形やその位置を変化させ、結果的に左右の咬み合わせの違いや、歯並びの中心線のずれが生じます。

コラム・第10回 / Dr.正木 史洋 [二期会歯科クリニック]_c0130091_9343950.jpg

 また、睡眠時の姿勢(睡眠態癖)も同様の影響を及ぼし、特にうつ伏せ睡眠は注意が必要です。下の写真は顔の右側を下に、すなわち左向きのうつ伏せ寝が習慣的に行われていた結果です。

コラム・第10回 / Dr.正木 史洋 [二期会歯科クリニック]_c0130091_935277.jpg

 成長期にこうした習癖による力が働くことで骨の形や歯並び、咬み合わせに異常を来し、治療が更に難しくなりますので是非気をつけていただきたいと願っています。

▽総合的な治療が可能な歯科医院です
医療法人 二期会歯科クリニック / 矯正歯科 小児歯科 歯科口腔外科 審美歯科
札幌市中央区北3条西2丁目 NC北専北3条ビル8F TEL:011-251-2220
# by nikikai_sapporo | 2008-08-17 16:22 | Dr.正木 史洋
「ペットと歯周病」             

 歯周病の治療を中心に、入れ歯からインプラントまで主として成人の治療を担当している本間です。

 我が家で犬を飼って12年と半年になります。ウエルッシュコー ギーのメスで名前はメグです。メグはなぜか犬嫌いで、散歩の折り に向こうからよその犬が来ると、横道に逸れようとします。反対に人が大好きです。来客があると飛び回って大騒ぎし、遊んでくれとせがみます。加齢とともに足元がおぼつかなくなり、昨年頃から散歩に行くのもおっくうになるようになりました。

 先月には鼻血が出て止まらなくなり、衰弱してきました。かかりつけの獣医さんを受診して血液検査をしたところ、診断は血小板減少症で重度の貧血状態とのことでした。

コラム・第9回 / Dr.本間 博 [二期会歯科クリニック]_c0130091_16474650.jpg

 ご存知のように血小板は血液の凝固機能に深く関わっており、減少すると止血が困難になります。その時はあいにく輸血してくれる大型犬が見つかりませんでしたが、ステロイドと造血剤の投与で事なきを得ました。今は元気になって、元のように大きな声で吠えてえさをねだっています。

コラム・第9回 / Dr.本間 博 [二期会歯科クリニック]_c0130091_16475751.jpg

 さて、ペットのえさといえば犬や猫を飼っている方はどのようなものを選んでいるのでしょう。私が大学を卒業して、歯周病を専門に研究する講座に入局し動物実験をしていたときのことをお話ししてみたいと思います。そのときはサルに短期間で歯周病を引き起こす実験をしていました。そのさい重要なのは、えさなのです。

 一般には飼育しているサルにはモンキービスケットというとても硬い飼料を与えますが、実験ではこれに水を加えてどろどろにしたものをやります。もちろん動物は自分では歯磨きなどできませんから、この泥状のえさは歯の周囲にどんどん付着してとても不潔な状態になります。

 そこに口の中の細菌が増殖して歯垢となり、この歯垢中の細菌が生産する毒素が歯ぐきに炎症を引き起こすのです。その結果歯ぐきが腫れたり出血してきます。さらにこの状態が永く続くと歯を支えている骨にまで炎症が波及して、まさに人間と同じような歯周病になってしまうのです。

 歯は動物にとって摂食のための道具であるとともに、闘争の手段です。野生動物にとって歯を失うことは即、死を意味します。私の恩師である故石川純先生が野生の日本ザルの食性と口腔内の調査をしたことがあります。その結果、野生のサルは果物の種が大好物でそのほかに木の根や葉を主食にしており、口の中は大変清潔であることがわかりました。

 歯に植物の色素が付着して一見汚れているように見えますが、虫歯や歯周病などはまったく見当たらなかったのです。これに反して人間の食べているものと同じ調理された軟らかなえさを毎日与えられているペットの口の中は出血や排膿、口臭など惨憺たるものです。

 人類は文明の発展とともに食事をおいしく楽しむことを憶えました。しかし軟らかく調理した食物は歯に付着しやすく、手入れを怠るとたちまちデンタルプラーク(歯垢)が増え、虫歯と歯周病の原因になります。特に砂糖が多く含まれているケーキや清涼飲料などはプラーク形成能が高いのです。

 禁断の果実を食べて快楽を覚え、エデンの園を追われたアダムとイブの末裔である我われ現代人は、いまさら原始の生活に戻ることはできません。今、地球温暖化やメタボリック症候群が大きな問題になっているように、自然の摂理に反した生活を続けると、いつかその代償を払わなければならないときがやってきます。

 せめておいしいものを食べても虫歯や歯周病にならずに済むように、毎食後の丁寧なブラッシングの励行や定期検査を欠かさず受けて、常に口腔内を清潔で健康に保ちたいものです。

 ちなみにメグのえさは硬いドッグフードで、おやつはささみや砂肝のジャーキーです。ときどきなだめすかして私が歯を磨いてやります。最近は年とともに気難しくなり歯石を取るのを嫌がりますが、口の中は清潔です。

コラム・第9回 / Dr.本間 博 [二期会歯科クリニック]_c0130091_1648744.jpg

▽総合的な治療が可能な歯科医院です
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# by nikikai_sapporo | 2008-07-20 16:55
歯科に対するイメージ「高慢と偏見」

 今回は門脇がコラムを担当いたします。
私、自他共に認める「映画バカ」でありますので、映画ネタを一つ。

 映画の中に登場するキャラクターには、実に様々な職業が出て参ります。
歯科医もちょくちょく出てきますね。私の愛読している映画関連書の中に「映画ひつまぶし」という本があります。著者は札幌で活躍する映画ライター、麓敬子さんで、2001年にワイズ出版から出版された本です。

コラム・第8回 / Dr.門脇 繁 [二期会歯科クリニック] _c0130091_864321.jpg

 この本の中に歯科医ネタのコラムがありまして、映画キャラとしての歯科医イメージが(1)成金(2)サディスト の2つに大別されており、(2)の例として「マラソンマン」(1976年)と「リトル・ショップ・オブ・ホラーズ」(1986年)が挙げられております。ここで私は「やられたぁ!」と思ったわけです。というのも、私が映画キャラ=歯科医の代表作は?と問われれば、迷わずこの二作を挙げるからであります。

コラム・第8回 / Dr.門脇 繁 [二期会歯科クリニック] _c0130091_87181.jpg

 「マラソンマン」では、ローレンス・オリビエ扮するナチの残党リーダーが歯科医で、ナチの隠し財産であるダイヤモンドのゆくえを主人公(ダスティン・ホフマン)に尋問するわけで す。「Is It Safe?」と言いながら、無麻酔で主人公の歯をゴリゴリグリグリ・・・拷問する様は、確かにもの凄く怖い!こんなシーンを歯科受診予約日前に観たら、十中八九キャンセルされてしまいますわ。
(最近の世の中、便利になったモノで、YouTubeでこのシーンが堪能できます。患者の皆様はくれぐれもキャンセルの無いようお願いします。)
http://jp.youtube.com/watch?v=dG5Qk-jB0D4
http://jp.youtube.com/watch?v=TPQ7KMCrPLE

 しかしながらこの「サディスト」のイメージは、意外に思われるかもし れませんが、あまり実態に沿ったモノではないように思います。我々が歯を削った り、抜いたりする際は常にその部分をどうやって修復していこうか、ということで頭が いっぱいなのであります。ですからサディスティックに破壊行為を嬉々として行う事はなく、むしろこんなに侵襲を加えて治癒は大丈夫だろうか、ここまで削ってその後のトラブルは出ないだろうか、それでも病変の完全除去・堅固な修復のためには仕方あるまい!などとゴチャゴチャ考えつつ仕事をしておるわけです。

 というわけで、歯科医=サディストというイメージは「偏見」であり、 こうしたイメージを払拭するためにも、患者の皆様に可能な限り恐怖感を与えぬよう我々は努力する必要があるのだと思っております。

 一方、この本では「リトル・ショップ・オブ・ホラーズ」も歯科医= サディストというイメージで取り上げられておりますが、私はどちらかというと(1)成金の方が近いように思えます。スティーブ・マーティン扮する歯科医は、ヘアスタイルをキメてバイクに乗ってやってきて、俺様が診てやるぞ!といわんばかりに患者さん達にむちゃくちゃな処置をやっていきます。しかもミュージカルで!

コラム・第8回 / Dr.門脇 繁 [二期会歯科クリニック] _c0130091_871142.jpg

(これもYouTubeで堪能できます。)
http://jp.youtube.com/watch?v=On3mrKW-Nk0

 シーンとしての「オバカぶり」はともかくとして、ここから感じ取れるのは「勘違いのプライドを基本とした成金趣味」であります。あるいは「高慢」と言ってもいいでしょう。実は私から見てもこのイメージは医者・歯医者にあるんです。
「あんたの言ってる常識って、どう考えても一般常識では非常識だろう!」とか「確かにあんたの実績は凄いかもしれんが、そうやって吠え続ける理由にはならんだろう!」という台詞が私の俗称「のどぼとけ(甲状軟骨近辺)」までこみ上げてくる場面は確かにあるんです。こういう「高慢」イメージが ギャグネタになってしまうところに、大きな問題があると言わざるを得ないのであります。スティーブ・マーティンの「オバカぶり」を観るたびに、「高慢」の魔の手から逃れねばならない、「高慢」のイメージを他者から持たれぬよう生きねばならない、と自戒するのであります。

 さて、「高慢と偏見」と来れば、連想するのはジェーン・オースティン原作の”Pride and Prejudice”です。2005年に映画化されたときの邦題は「プライドと偏見」。我が愛しのキーラ・ナイトレイがアカデミー主演女優賞にノミネートされた秀作であります(これには歯医者は出てきません)。
この話になりますと3回分のコラムスペースを使ってしまいそうなの で、今回はこの辺で。

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# by nikikai_sapporo | 2008-07-11 08:13 | Dr.門脇 繁
「泣く小児の治療について」

コラム・第7回 / Dr.小竹 憲雄 [二期会歯科クリニック] _c0130091_1181530.gif

小児歯科担当の小竹です。
まだ幼くて聞き分けがないので・・・と言って治療をあと延ばしにしてしまう親御さんがいらっしゃいます。

『泣くのは子供の気持ちの表現』
今日まで何万人ものお子さんと接してきました。小さな子供が歯科診療室で泣き出すのはごく自然な行動です。今まで経験したことのない見知らぬ場所で、口の中に触れられるのは大人でも嫌なことだと思います。その気持ちを理解してあげることで、お子さんは驚くほど診療に順応できるようになります。

『乳幼児にとって口の中は一番気持ちのよいところ』
成人は色々な部分で快感を得ることが出来ますが、就学前の小児にとって気持ちの良さを唯一感じることが出来るのは“口の中”です。自分で指を入れたり、おしゃぶりや歯ブラシをくわえるのはその現れです。
歯医者が嫌いな原因の一つは、今まで家庭での歯ブラシが痛かったこと にあります。

コラム・第7回 / Dr.小竹 憲雄 [二期会歯科クリニック] _c0130091_1183363.jpg

『歯ブラシはたて磨きで』
口の中には“上唇小帯”といって唇から歯の付け根につながるひも(上唇小帯)があります。その小帯を歯ブラシで横磨きするととても痛いのです。
“自分で歯ブラシを持つのは好きだけど、お母さんの歯ブラシは嫌い“という場合はその磨き方が原因です。

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コラム・第7回 / Dr.小竹 憲雄 [二期会歯科クリニック] _c0130091_11984.jpg

『2歳半から急に虫歯になりやすくなる』
2歳半は上下の乳歯が10本ずつ生えそろう年齢です。食事量やおやつが増え、虫歯も知らないうちにどんどん進むことがあります。
2歳半までは必ず歯科健診を受けましょう。
理想的には1歳になった時から、定期的な健診をおすすめします。

『虫歯はあるけど痛くはない』
3歳未満の小児の9割は、虫歯があっても未だ痛くはないケースです。
涙がでるうちは簡単な治療で済ませます。
歯ブラシの練習
フッ素塗布
虫歯進行止めの塗布
仮の虫歯の充填などなど   
どれも1~2分の治療時間で済み、痛みを感じることはありません。
治療は痛くないと理解することで、数回後からはお利口に治療できることがほとんどです。

コラム・第7回 / Dr.小竹 憲雄 [二期会歯科クリニック] _c0130091_1192764.jpg

コラム・第7回 / Dr.小竹 憲雄 [二期会歯科クリニック] _c0130091_91259.jpg

『虫歯や怪我でとても痛い』
不幸にしてどうしても機械を使っての治療が、その日のうちに必要な場 合もあります。
その場合大切なことは安全確実に処置をすること。身体が不随意に動く場合は体を固定するネットを使います。嫌な思いをする時間を出来るだけ短時 間にすること。
歯科医師1人に3人の歯科衛生士が付き、8本の手を使って素早く無駄 のない治療をします。

コラム・第7回 / Dr.小竹 憲雄 [二期会歯科クリニック] _c0130091_11114451.jpg

コラム・第7回 / Dr.小竹 憲雄 [二期会歯科クリニック] _c0130091_11115897.jpg

『痛くなる前に遊びに来て下さいね』
まず診療室の雰囲気に慣れることが大切です。言葉を理解できる年齢に なったら、ほとんどのお子さんは1人で診療室に入ることが出来るようになります。
それは保護者の方が思っているよりも、お子さんの適応能力の広さに驚かれると思います。頑張って治療が出来た時は、どうぞ思いっきり褒めてあげて下さい。
診療が終わったらお子さんはシールやバッチをもらって帰ります。
定期的に健診することで、お子さんは健康な口腔と歯並びを維持することが出来ます。泣き虫の幼少時代から、いつの間にかお父さんお母さんになるまでずうっと見守っていくのが小児歯科のお仕事です。

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コラム・第7回 / Dr.小竹 憲雄 [二期会歯科クリニック] _c0130091_11124769.jpg


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# by nikikai_sapporo | 2008-06-06 10:57
【カマキリ飼育の記憶】

 これは今から23年前のことである。札幌生まれ札幌育ちの私は、高校1年の夏、鳥取県の某高校へ転校した。米子は札幌に比べてとても田舎で、ほとんどの店が午後6時には閉店し、24時間ストアーやコンビニは存在しなかった。マクドナルドもなかった。何より方言が独特で、関西弁とも九州弁とも山陽地方の方言とも異なっていた。濁点が多く、一言でいえばかわいくない感じの方言だった。どんなにかわいいと友人が騒いでいる女子でも、かわいいと思えなかったほどであった。しかし、高校卒業まじかには、方言にも慣れて女子もかわいく思えてきたが、時すでに遅しであった。

 そんな私は、全く女に縁も無く、ただハンドボールにのめり込んでいた。インターハイを目指して、授業中もハンドボールのフォーメーションを考えているほどであった。部活の最初に5キロのランニングがあり、部活は日没まで2時間ほど行っていたが、そのあと自主的にさらに5キロのランニングをこなし帰路についていた。
 ほとんど部活と体育の授業が楽しみだったあの時代に、もうひとつだけ、ひそかな楽しみがあった。

 それは、昆虫である。

 鳥取県には北海道にはいない昆虫がたくさんいた。おんぶバッタもそのひとつ。バッタはトノサマバッタが北海道では一番大きく、憧れのバッタだった。しかし、おんぶバッタはその2倍くらい大きく感動した。また、北海道ではアブラゼミとエゾゼミが2極をなす大きなセミであるが、鳥取のクマゼミの大きさには気絶しそうなインパクトがあった。

 ある夏の日、オオカマキリのメスが私の前に現れた。図鑑で見た憧れのカマキリ。日本最大のカマキリ。円山動物園の昆虫館で見るよりデカかった。捕まえようにもカマを振り上げ、羽を広げ、威嚇されたら手がでなかった。1時間ほど見とれていた。捕まえ方がわからなかった。無理につかむと殺してしまいそうで手がでなかった。そのうちにそのカマキリは飛んでいった。ただ見送っていた。

 そして冬が来た。鳥取の冬は雪がほとんど降らない。北海道育ちの私にとっては、冬が来る前に春が来る感覚で、消化不良の冬である。そんな冬のある日、小さな木の枝にオオカマキリの卵を見つけた。図鑑で何度も見たあのハート型の卵胞。見つけたときは有頂天であった。枝ごと虫かごの中に入れた。写真で見るような200匹もの幼虫が、垂れるように孵化してくるのを楽しみにしていた。しかし3月になっても、暖かくなっても孵化しない。もう卵は死んだのだと思い、虫かごの外に出し、本の間に挟んでオブジェとして飾っていた。3月は、北海道の感覚ではもう初夏であったが、鳥取では春になったばかりであった。

 カマキリの孵化は4月初旬ある日突然始まった。学校から帰って、自分の部屋に入ると、床じゅうに小さな虫が動いていた。体長1cmほどの幼虫である。幼虫と言っても、羽がないだけで見るからに立派なカマキリの形態をしていた。本物の生まれたてのカマキリを見たのは初めてで、うれしくて、たのしくて、部屋中に散らばった約200匹のカマキリはそのままにして、カマキリたちと戯れていた。しばらくして見慣れてくると、やたらに多いカマキリの処分に困った。もちろん殺すわけにはいかない。憧れのカマキリである。まず、全てのカマキリの幼虫を摘まずに手に乗せて虫かごに入れた。ほぼ全部を捕まえるのには1時間ほどかかった。虫かごいっぱいの幼虫を見て、こんなに飼えないと思った。「吉兆」と同じく、もったいないと思ったが、10匹を残しほとんどは隣の空き地に逃がした。

コラム・第6回 / Dr.佐藤 禎 [二期会歯科クリニック] _c0130091_6483317.jpg

 次の日はカマキリの餌を探しに行った。カマキリは自分より大きい相手は餌としない。小さなカマで捕まえられる大きさの虫でなくてはならない。しかし、この時期にバッタは孵化していない。ショウジョウバエも捕まえられなかった。何にも餌は見つからなかった。外はまだ寒すぎた。逃がしたカマキリをかわいそうと思い探したが、1匹も見つからなかった。仕方がないので、そのまま水だけを与えていた。霧吹きの水滴を飲むカマキリはかわいかった。私があげたものを口にする姿が愛らしかった。

 3、4日するとカマキリは9匹に減っていた。バラバラになったカマキリが虫かごの底に転がっていた。共食いしたのである。私は、1匹ずつ分離して飼うことも考えたが、餌がない以上仕方がない。心は痛んだが、共食いさせることで、最強のカマキリが残るのではないかと考えた。

 どんな壮絶な環境であったかは知る由もないが、すぐに最後の1匹になった。最後の1匹は、後からわかったが、メスだった。虫の世界も、人間の世界もメスは強いのである。メスが強いといえば、私の妻も…やはり止めておこう。

 最後の1匹になっても、外に虫はいなかった。餌がなかった。生肉を糸につけて揺らしたりもしたが、上手くいかない。口のそばに肉を持っていってもほんの少ししか口にしない。このままでは死んでしまう。私は究極の手段に出た。指のサカムケから出た血液を飲ませてみたのである。すると、喉が渇いていたのかとても美味しそうに、初めて水を飲んでいたときと同じように愛らしく飲むのであった。外に虫が出てくるようになるまでは、この状態が続いた。

 そうしているうちに、さまざまな虫が見つかる季節に突入した。色々捕まえてきて試した。バッタは美味しいらしい。ダンゴ虫などの殻のかたい虫や甲虫は苦手、蝶や蛾は食べ残しが汚い、ゴキブリを食べている姿は、見ているこっちが気持ち悪い。色々なことがわかり、結局バッタを主食にすることにした。

 室内で飼っているので、風は吹いていないのに、カマキリは獲物に近づいていくとき、風に揺らされているように体を左右に振りながら前進する。動いているものに顔だけを向け、カマの前足をゆっくりと獲物の方へ動かして歩いていく。獲物に近づくとカマの前足は正中にそろえ、後ろ足だけで体をユラユラとさせながらさらに近づく。そして、電光石火の勢いで両方のカマで獲物を捕らえるのである。決して獲物の腹からは食いつかない。必ず、首や頭から噛り付くのである。獲物は一巻の終わりである。獲物も必死にもがくが、カマは決して離してはくれないのである。

 私は毎日、学校帰りに1匹の獲物を捕らえるのが日課になっていた。カマキリの大きさに合わせた獲物を捕まえることはとても楽しかった。血を分けた彼女も最後の脱皮を無事に終えた。カマキリは9回の脱皮をして成虫になる。最後の脱皮で羽が背中に生えるのである。立派なメスのオオカマキリに成長した。今まで脱いだ殻は記念にとってあった。脱皮をするたびに大きくなる。すごい変化であった。

 昆虫には完全変態と不完全変態の2つの成長の仕方がある。完全変態とは、幼虫と成虫の形態がまったく違い、蛹になり成虫になるものである。たとえば、カブトムシや、蝶がそうであり、幼虫の時期は芋虫のような形態をしていて、成虫のときとは食べ物も形態も全く異なる。それと対照的に、不完全変態は幼虫のときも成虫のときとほとんど変わらない形態や摂食様式をとる。バッタやゴキブリがその仲間にあたる。トンボも蛹にはならないが、不完全変態の一種で半変態という分類に属する。カマキリは不完全変態である。

 私のカマキリも立派な成虫になったが、結婚相手がいなかった。成虫になる時期も外の時期とはずれていたのである。かわいそうにも成虫になるのが早すぎたのである。私は彼女を逃がすことにした。最後ぐらいは自然の中で、自由にさせてあげたかった。断腸の思いで野原に放した。外の若いカマキリには、いろんな意味で彼女は「カマキリ夫人」だったのかもしれない。オスの小さなカマキリは餌食になったことだろう。一生伴侶にめぐり合うこともなかったかもしれない。

 そんな彼女には申し訳ないが、私は結婚し、今は3人目の子供が生まれようとしている。小学2年生になる長男の友達から「本州から送られてきたカマキリの卵が孵化した」と連絡があった。子供よりも私が乗り気でもらいにいった。15匹もらった。子供も私も、有頂天であった。ただ、そのときに駐車違反となり1万5千円の罰金が科せられ、カマキリ1匹は千円の値がついた。

コラム・第6回 / Dr.佐藤 禎 [二期会歯科クリニック] _c0130091_6485383.jpg

 現在、アブラムシを餌にしているが、妻からは「観葉植物にアブラムシがつかないように」とプレッシャーをかけられつつ、子供よりも私の方が真剣に飼育している。オオカマキリは札幌にはいない種なので、成虫になっても鳥取時代のように逃がすことは出来ない。しかし、そんな心配が出来るように成虫までしっかりと飼育して、子供と一緒に楽しい体験をしてみたいと思うこのごろである。

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# by nikikai_sapporo | 2008-05-21 06:50 | Dr.佐藤 禎