コラム・2月号(第184回)/ Dr.佐藤 禎【二期会歯科クリニック・札幌市中央区】
2023年 03月 02日
初心を振り返る
佐藤 禎
二期会歯科クリニックに勤務して25年が経つ。院内研修会などの古い書類を整理していると、つい時間を忘れてしまう。色々な疾患についての勉強会や症例検討など、頑張ってきた軌跡に懐かしさを憶え、時に反省を促される。
そのなかで、私が二期会に勤務して1年余りを過ごした時期に院内研修会で発表した文書を見つけたので、供覧し当時の自分を振り返ってみることにした。
*****以下引用*****
「患者さんの理解を得るために」 1999年7月27日
<はじめに>
歯科医師として患者さんに発する言葉は、時に、とても重たい意味とニュアンスを持つことがあります。同じ意味の言葉でも、その時期、言い方、単語によってはかなり患者さんに与えるイメージが異なります。ごく普通にリラックスして見える患者さんも、診療所に来る前、待合いの間、治療直前、治療中、治療直後、つぎの治療までの間、必ず何らかの不安をもっているはずです。
私なりに考えてみますと・・・
・この痛みは何だろうか、治るのだろうか。
・この先生は信頼できるのだろうか。
・何をされるのだろうか。
・痛くないけど何か変な感じがする。
・いったい幾らぐらい費用がかかるのだろうか。
・どうしてこの治療をしているのだろうか。
・期間はどのくらいかかるのか。
・・・・など多種あると思われます。
私は、治療内容に関しては、あまりこだわりがある方ではないと思っています(しかし、近年だんだんこだわりが増えてきましたが・・)。 インフォームドコンセントを達成するには・・・などという雑誌の特集や、書籍はたくさんありますが、まず患者さんに理解してもらわなければならないことは「どうしてこの治療をするのか」です。「理由、つまりどうして?」という部分をしっかり患者さんに伝えることが大切であり、難しいことだと思います。
さらに、恐がらせるような言動は絶対にいけません。何かしらの恐怖や不安を持って来院している患者さんが大多数だと思われるからです。そのためには、同じことを伝えるにしても、わかりやすく、恐くない説明の仕方が、何より一番の特効薬と思います。これができれば、患者さんとの信頼関係を固くし、円滑に治療を進められるのだとも思っています。
ある調査で「歯医者に対する国民のイメージ」として
「キ」タナイ、「タ」カイ、「ナ」ガイ、「イ」タイ、「ワ」カラナイ
というものを見つけましたが、このうちは初めのキタナイ以外は会話による患者さんとの信頼関係によってクリアーできるのではないかと感じています。
(中略)
毎回行うこと
・患者さんの目を見て始めの挨拶、終わりの挨拶。
・今日すること、今日したこと、次回にすることの説明。
説明時の注意していること
・声は大きすぎず、小さすぎず、はっきりと、ゆっくり説明。
・どうしてその治療をした(する)のかという理由に重点を置く。
・患者さんが不安に思う事柄を予測する。
必要最小限で簡潔に理解しやすい筋道で話す。
・急いでいるときほど、ゆっくり話す。
<初診時において>
何事も初めが肝心と言いますが、患者さんが初めて来院されたり、他の先生からの引継で再来院された瞬間はとても重要な時だと思います。ここで信頼関係を少しでも築いていくことができれば、以降の治療がスムースになります。
初診時に限らず、ある治療に取り掛かる瞬間も同じだと感じています。私は治療の開始に当たり、基礎知識の説明をすることにしています。なぜなら、途中で説明して行くよりも、最初にどのような治療なのかというイメージが伝われば、その後は簡単な説明で次のイメージを伝えることができるようになるからです。
私は初診時において、パノラマエックス線写真の見方を必ず説明しているのですが、これも治療に対するイメージづくりの基礎のためです。患者さんによってはエックス線写真を見ながら、歯周病の話やメタルコアとクラウンの話、二次カリエス(虫歯)の話、親しらずの話など患者さんの興味のありそうな、現症に沿ったことを加え、(自分なりに)分かりやすく説明しています。
(中略)
(初診時のこのような説明によって)なんとなく歯というもの、虫歯や根管治療、その後の補綴というものについてのイメージが湧きやすくなるのではないでしょうか。また、患者さんになるべく興味を持っていただけるように工夫しているつもりです。
<外科処置を怖がらせずに>
患者さんが恐がることに「手術」と言う言葉があります。ただでさえ恐がるものをどうやって説明すればいいのか考えさせられました。説明しなければ気が済まない私ですので、つい言い過ぎてしまったり、患者さんが思わず身を引いてしまうような言葉を発してしまったりしました(今もたまには)。このごろ、術式などにおいて分かりやすく説明できるようになってきた気がします。
(中略)
<患者さんとのイメージの共有>
「話し手と聞き手が共通のイメージを持つ」ということは「言葉を共有する」ことです。専門用語を患者さんに分かりやすく別の言葉で分からせる(゠イメージさせる)ことはとても難しいことだと思います。患者さんの反応を察知しつつ、患者さんの現症や術者の意図をどういう言葉に置き換えて表現すべきか、瞬時に臨機応変に判断しなければならないからです。そのためには、言い換えるべき言葉の数を増やしておかなければならないと思います。とっさに出てくる危険な言葉の代わりに。
最後に、言い換えた方が良いと思われる単語についてまとめてみました。
わかりにくい言葉(専門用語) → 分かりやすい言葉
細菌 → バイ菌
歯肉 → 歯茎(はぐき)
歯根 → 歯の根っこ
根治 → 根の治療
根尖 → 根の先
病巣 → バイ菌の巣
歯周病 → 歯槽膿漏
歯肉炎 → 歯茎の腫れ
う蝕 → 虫歯
レジン → プラスチック
根充材 → ゴム
コア → 土台、心棒
コーパック → 歯茎の包帯
義歯 → 入れ歯
クラスプ → バネ
歯肉切除 → 悪い歯茎を取る
縫合 → 糸で縫う
クラウン → 被せ物、冠
分かりやすい痛みの表現法
鈍痛:ズーンとしたような、もわ~っとしたような、ジクジク重たい感じ。
鋭痛 :キリキリしたような、しみるような、キーンと鋭い感じ。
拍動痛 :ズキズキするような、ズッキンズッキン痛い。
自発痛 :だまっていても痛い、何もしなくても痛い。
恐い言葉 → 比較的軟らかい言葉
エックス線を撮る → 写真を撮る
刺す → 入れる
剥がす → めくる
歯を抜く → 歯を取る
切る → 取る
手術する → なるべく使わない
歯を削る → 虫歯をとる、歯の形を整える、歯を綺麗にする
注射する → なるべく使わない or 麻酔をする
(中略)
******以上引用******
以上が、24年前に私がまとめた発表の原稿であるが、読み返してみても、スタンスは変わっていないことに安心した。今では説明の仕方はバージョンアップしているが、こういった患者さんに対する姿勢などは変わらないものなのだなと思う。
これからも、患者さんにわかりやすい説明ができるよう心がけていきたい。
最後に、文章の初めの方に、「私は治療内容にこだわりがあまりない」と書いていたが、今では「かなりこだわりが強い」と実感している。
▽総合的な治療が可能な歯科医院です
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by nikikai_sapporo
| 2023-03-02 17:48
| Dr.佐藤 禎