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歯科医師が綴るコラム集やお知らせなど【二期会歯科クリニック】札幌市中央区北3条西2丁目 NC北専北3条ビル8F/TEL:011-251-2220


by nikikai_sapporo

コラム・6月号(第176回)/ Dr.門脇 繁(【二期会歯科クリニック・札幌市中央区】

〜子供が出てくる映画は「子供の映画」じゃない〜

映画の話をしているとき、どんな映画が好きかという話をしているとき、そしてそんな映画は苦手かという話をしているとき、こんなことを言う人がいる。

「子供や動物の出てくる映画はダメだね。子供や動物をダシにして作る映画にろくなもんは無いな」と。

昔々のハリウッド映画などを頭に描くと、こういう意見にも少しは賛同したくなるが、「でも違うだろ、それは!」と言いたい。2022年の春、子供が映画の真ん中に鎮座する傑作を立て続けに三本観た。困ったことに(別に困らなくて良いんだが・・)三本とも今年のベスト10当確なのだ。

            *****

「ブルー・バイユー」ジャスティン・チョン監督作品

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大人(親)の事情で傷つけられる子供は後を絶たない。3歳で韓国から養子としてアメリカに渡り、アメリカ人として生きてきた青年は「親に棄てられる」経験を重ねてきた。だから妻の連れ子である7歳の娘ジェシーや生まれたばかりの自分の子にそんな思いをさせない、今の家族を護っていく、それが自分の使命だと青年は思っている。映画では詳しくは描かれないが、ジェシーも実の父親に棄てられたようなものなのだ。義理の父娘は共通の痛みを抱えながら、打ち解けて絆を深めていく。しかしアメリカの移民政策の「穴」のせいで、つまり法律上の(大人の)事情によって青年に国外追放命令が出されてしまう。なんとか踏み留まろうともがき苦しむが、結局は大人の事情に従い、青年は家族を残してアメリカを離れることになってしまう。

空港の出国ゲートでのラストシーンで、ジェシーが叫ぶ!
〜だってそりゃ、おかしいだろう!法律の矛盾を何で個人の犠牲で償うんだい?なんで大好きな義父さんを奪うんだい?なんで大切な家族をバラバラにするんだい?〜
・・・といった想いなのだが、子供はそうは言わない。

「Don’t Go!」

その叫びは、大人の事情なんてぶっ飛ばす、ぶっ壊すものだ。
その叫びは、真っ当だ。

大人の理屈や事情が子供を傷つけないよう、どうにかしなきゃダメだろう!?

観ている私の涙はナイアガラ、となる。

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「ベルファスト」ケネス・ブラナー監督作品

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北アイルランドのベルファストに住む9歳の少年バディとその家族の物語。まさに少年の眼前で北アイルランド紛争が勃発し、家族(ホーム)と地域(ホームタウン)がそれに巻き込まれていく。アイルランドにおける「カトリック」と「プロテスタント」の対立の歴史は他の書物や記事に譲るとして、北アイルランド紛争はこの宗派対立による住民同士の衝突・暴力化であり、宗教的・政治的な分断をもたらした約30年にわたる泥沼の悲劇と理解している。・・とここまで書いていると、トランプ政権以降のアメリカや、今まさにウクライナで起こっている戦争と見事にリンクしてくるではないか。人間はいつまで経っても、進歩も調和もしない生き物なんだなぁ、とつくづく思ってしまう。

この映画はシェイクスピアを中心とした舞台俳優であり、かつ映画俳優・監督でもあるケネス・ブラナーの自伝的物語である。よって少年バディはまさしく彼自身のことだ。そしてベルファストでの生活(両親、祖父母、学校、御近所、遊び場・・・)は彼のチャイルドフッドそのものだ。家族で見に行く映画は「チキ・チキ・バン・バン」「恐竜100万年」、クリスマスに買ってもらうのは「サンダーバード」コスチュームにグッズだ!・・・あれ?ベルファストのバディ(ケネス・ブラナー)と札幌で生まれ育った私、同じような年頃に、同じ映画を観て、同じTVグッズをクリスマスに買ってもらってる!

・・・調べて判った!
「ケネス!オマエさん、俺とドンパじゃん!(1960年生)」
俄然、シンパシーが盛り上がる。

紛争によって街の治安は日に日に悪化してくる。プロテスタントであるバディ一家は、直接襲撃されることはないものの、カトリック排斥運動に積極的に関わるように脅される。父ちゃんは出稼ぎ大工で留守がちで、留守を守る母ちゃんの不安は募る。そして経済的理由と家族の安全のため、父ちゃんの出稼ぎ先(ロンドン)へ引っ越す案が現実的になってくる。

〜ベルファストが大好き。友達も御近所の人達も、学校も大好き。好きな女の子もできたのに・・・。行きたくないよぉ!〜

ロンドンに引っ越したら、言葉(アイルランド訛り)が通じなくて友達もできないんじゃないかと不安なバディ君に、爺ちゃんが言う。
「相手を判ろうとすりゃ、どんな言葉だろうが、どんな訛りだろうが、判るもんだ。まあ、ウチの婆さんと結婚して50年以上になるが、まだ言葉は通じないんだけどな。」
そんな洒落の効いた爺ちゃんも病気で逝ってしまう。

映画のラスト、見慣れた街並みに後ろ髪を引かれつつ、長距離バスに乗り込む家族。ベルファストに残る婆ちゃんが、遠くからバスを見送りながら、つぶやく。しっかりとした力のこもった口調で、つぶやく。

「Go! Go, now! Don’t look back, so I love you.」

その時の婆ちゃんの顔アップ(演じるのは稀代な名女優:ジュディ・デンチ)を観ながら、私の涙の河は大・氾・濫、となる。

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「カモン カモン」マイク・ミルズ監督作品

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この映画の主人公もジェシーという名だ。でもこの映画のジェシーは、ロサンゼルスに住む9歳の少年である。父さんはクラシックのミュージシャンで、別の都市の交響楽団で仕事しているが、双極性障害があって病状悪化してしまう。母さんは文筆家で色々才能はあるんだけど、器用に物事をこなせるタイプではない。母さんはそんな状態の父さんのところに行って、色々ケアをしなければならなくなるが、ジェシーの面倒を誰かに頼まなければならない。そこで疎遠になっていた自分の兄に連絡を取るところから、物語が始まる。

ニューヨークでやもめ暮らしの兄(ジェシーにとっての伯父)は、ラジオ・ジャーナリストをやっている。各地で子供にインタビューして録音し、彼らの声をラジオに載せてリスナーに届けるというのが仕事だ。このインタビューが凄いのである。この部分に脚本はなく、実際に各地に暮らしている9〜14歳の子供たちにマイクを向け撮影しているそうだ。質問内容は、今の生活について、家族について、自分の責任について、未来について、社会や世界について、君は今どう思っているの?というようなこと。「もし、答えたくないことだったら、無理しないでNOと言ってね。」と優しく丁寧に接する。実際の子供たちの生の答えにビックリする。嗚呼、なんて素晴らしいんだ!君たちに世界を任せればきっとよりよい未来があると、心から思えるような答えなのだ。言い換えれば、ピュアな希望がそこにある。「君たちの爪の垢を採取して、煎じ薬を作って世界各国の政治家たちに配布しなさい!」とまで思える。そんな子供たちの声が映画全編の通奏低音となっている。

さて、そんな仕事をしている伯父さんは、実際にジェシーと過ごしてみるとどうもうまくいかない。ジェシーの方も友達が一人もいなくて、興味や話題が尖っている、所謂「扱いが大変な子」なのだ。一筋縄ではいかんのよ。伯父とジェシー、双方の歩み寄りながら、徐々にコミュニケーションの糸口を見いだしていく。

そんな過程で、伯父さんがジェシーに本の読み聞かせをするシーンがいくつか挿入される。そのうちの一つが特に胸を打つ。「星の子供(Star Child)」(クレア・A・ニヴォラ著)という絵本の一節である。

遠い宇宙に住む異星人の子供が地球に憧れて、人間として地球に生まれたいと願う。異星人の親が子に、地球で生まれ直し、生きていくのはどんな感じなのかを説明していくくだりがその読み聞かせシーンである。
  伯父が読み終えて「凄い本だ・・。」と呟く。
  ジェシーが「泣いてるの?」と訊く。
  伯父「泣いてないよ。」
  ジェシー「いや、完全に泣いてるっしょ。」

このやりとりのシーンを観ながら、
私はマスクの下で鼻水を静かに流しながら、
「全然、泣いてないっすよ。」と心の中で答えるのであった。

読み聞かせ部分をナレーションとした予告編がこちら。

            *****

この三作品を思い起こすと、子供への接し方に共通の素晴らしさがあることに気付く。
「まだ子供なんだから、そんなことに首突っ込むんじゃないよ!」と子供を子供扱いしない。
「もう大人なんだから、そのくらい判れよ!」などと大人扱いにもしない。
子供を「人間扱い」しているのである。人として接するのである。
そうすることが言葉で言うほど簡単なことじゃないのは判っている。でもそれが大切なんだな。

子供の頃の辛い経験や出来事は心の深い傷となって残る。大人の事情(法律や戦争や仕事や病気)で、これからもたくさんの子供たちが犠牲を強いられる場面があるだろう。それはどうにも避けられないことだって多いと思う。しかしそんな場面でも、当事者の大人や周囲の大人がそういった子供たちを「人間扱い」して、しっかり向き合っていけば子供たちが負う傷は最小限になるのではないかと思う。一方、和やかで愛おしい日常、普通に幸せな日々、穏やかな暮らしは子供の体に取り込まれて血や肉に置き換わり、明確な記憶からは消えていくものなのかもしれない。だから大人が子供に全力で作ってあげなきゃならないものは、「いつか消えてしまうであろう日常の記憶」なのだ。

そんなことを感じさせてくれる、大人のための三作品であった。

自分の7〜9歳頃の日常ってどんなだった?と思い起こしても、な〜んにも憶えてない。
ということは・・・、心底、親に感謝だな。

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by nikikai_sapporo | 2022-06-01 00:09