歯科医師が綴るコラム集やお知らせなど【二期会歯科クリニック】札幌市中央区北3条西2丁目 NC北専北3条ビル8F/TEL:011-251-2220


by nikikai_sapporo

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「偶然と必然」  本 間 博

 歯学部を卒業して国家試験に合格し歯科医師になって39年が経った。二期会で仕事を始めてからもうすぐ30年になる。どちらかといえば飽きっぽい性格なのに我ながらよく同じ仕事を何年もやり続けてきたと思う。職業とはそういうものといわれればそれまでだが開業医になって以来、転勤や昇進などには関係なく同じ場所でほぼ同じことを長年やり続けるにはそれなりの心構えと根気がいる。もちろん患者さんの口の中の状態は誰一人として同じではなく、性格や生活環境も異なるのでそれぞれにコミュニケーションを取りながら対応していかなければならないし、医療技術の進歩や発展に伴う治療内容の変化はあるのだが、それにしても決して広いとは言えない口の中を仕事のフィールドとしての39年である。

 人はどのようにして職業を選択するのだろう。ほかの学部と違って歯学部や医学部、教育学部などに進学するということは高校卒業の時点でほぼ一生の職業を決めてしまうことになる。家族や親戚に同業の者がいればそれなりに仕事のイメージを把握できようが私の場合にはそのような環境とは無縁で、ある意味いくつかの偶然が重なった結果である。

 子供のころから自分は文科系の人間だと自覚していて、それは今でも変わりはない。
それが今から思えば全く単純なことがきっかけで歯科医師になり、40年近くも経ってしまったことについては我ながら苦笑せざるを得ない。

 文科系から歯学部志望に変更した最大のきっかけは、高校2年の時に見たあるテレビドラマのヒロインに恋い焦がれてしまったことで、次の偶然はその後の全国的な大学紛争の端緒となる東大医学部から始まったインターン制度廃止、医局解体運動が起こったこと、次に自分の歯が痛くなり歯の治療を受けたこと、そしてその年、北大に歯学部の新設が決まったことである。あの時期にこの4つの出来事が同時に起きなければ、たぶん経済学部か法学部にでも進んでサラリーマン生活に就くか、うまくいけば公認会計士や経営コンサルタントなどの専門職に就いていたかもしれない。運命論者ではないのだが、偶然が3つまでならともかく4つ重なるとそれは偶然ではなく必然だったのかもしれないと思うことがある。しかし、17歳の頭でそれなりに判断した結果とはいえ、職業選択の最大のきっかけがテレビでしか見たことのないある女優だったなどとは、ずいぶんいい加減なものだと言われても返す言葉がない。

 入学後、大学紛争の激化に伴い教養課程の2年間は騒然としていたが、専門課程になってからは紛争も落ち着き、良い教授陣にも恵まれて結構充実した学生生活を過ごすことができた。その時出会った同期生と、卒後約10年を経て二期会歯科クリニックを設立し今に至ったことも、元はといえば4つの偶然のたまものである。

 人生には進学や就職、結婚などその後の生活環境を決めるうえでの重大な岐路がいくつかある。親や生まれてくる時代を自分で選ぶことはできないが、職業と配偶者に関しては誰にでも選択権がある。私の場合には歯科医師とは何たるかも知らずに、単純極まりない理由からこの仕事についてしまったわけだが、その結果として仕事を通じて縁のあった友人知人、配偶者などの人間関係の延長線上の中で生きている。これが今と違う職業についていたら自分という本質は変わらないまでも、全く異なった人間関係の中で別な人生を歩んでいたわけで、そう考えると17,8で進路を決めることの影響の大きさはかなりなものだ。

 そうやって選んだ仕事が好きか嫌いかと問われれば、即答は難しい。近頃は「自分探し」と称して転職を繰り返す若者がいるようだ。仕事の向き不向きは確かにあるので、どうしても合わない仕事ならさっさと辞めた方がいい。しかし石の上にも3年というように、やり続けることで仕事の面白さや向上心が生まれてくることもあるのではないだろうか。

 私の場合仕事が楽しいと思ったことはあまりない。狭い口の中で0.1m㎜以下の精度が求められる作業をミスを許されずに行い続けることは、何年経っても結構きつい。しかも対象が感情を有する生身の人間だ。自分なりに気を使いながら、制約の多い保険制度と限られた時間の中で細かな仕事を行うにはそれなりのストレスがかかる。仕事中は常に何かに追われている感覚から逃れられず、休日が待ち遠しい。週末になり1週間の仕事が終わった後の解放感は何事にも代えがたいが、日曜の午後からはまた翌週の仕事のことが気にかかってくる。救いは患者さんの笑顔と感謝の言葉に尽きる。

 私には医療人に最も必要とされる仁や徳の力が欠如しているので、専門職としての責任感だけで何とかやってきたように思う。それでも患者さんの疾患の進行状態によっては、必ずしもお互いに満足できる結果が得られないこともあり、そんな時は落ち込む。 

 長年仕事をして見えてきたことは、個々の患者さんの予後の見通しだ。平たく言えば治療後の経過が良好に維持できるか、あるいはその逆にスピードの差こそあれだんだん悪くなってしまうかということだ。同じように治療を行い定期検診で通院していても、生活習慣と遺伝的要因によってずいぶん経過が異なってしまう。具体的には食習慣やプラークコントロールのレベルとともに、元々の歯の石灰化の程度、歯並びや残っている歯の数と噛み合せの状態、歯根や歯槽骨、歯肉の性状、咀嚼習慣や咬合力の強さなどによって予後は大きく影響される。すべてではないのだがその人固有の形態を含めた免疫力などの遺伝的な要因がかなり大きく影響しているように思われる。高齢になっても虫歯や歯周病がない患者さんに聞いてみると、親や兄弟も歯が健康なことが多い。
臨床医には患者さん固有のリスク要因をしっかり見極めたうえで、その人に応じた最適な治療とメインテナンスケアを行うことが求められる。

 一般論になるが医療の目的は、疾患のある状態をできるだけ健康な状態に回復してそれを持続させることにあるし、さらに進めて疾患の発生を未然に防ぐことが理想だ。近い将来遺伝子レベルの研究が進み、両親のDNAの組み合わせを分析して、生まれてくる子供のすべての発症リスクを取り除けるような時代が来るかもしれない。それはそれでまた新たな問題が生じそうだが、ともあれそのような近未来の医療レベルと今我々がほとんど手作業で行っている必ずしも効率的とは言えない歯科治療を比較すれば、まるで原始的で陳腐なものに見えるだろう。それはあたかもインターネットの発達により地球規模で瞬時に膨大な情報が行きかう現代から、飛脚が徒歩で情報伝達をしていた頃を振り返って見るようなものだろう。おそらく数十年以内に訪れるはずの飛躍的に発達した生命科学の時代を想像しつつ、この時代に生きる者の宿命として、今できる医療レベルの限界の中で日々の診療に携わっているのが現状だ。

 46年前の一つの偶然がきっかけでそれまで考えてもみなかった職業に就き、歯科医療従事者としての長い旅を続けてきた。その過程で、恩師や諸先輩、同僚そして数千人の患者さん、友人や知人、家族など多くの人と関わってこられた。苦しみも喜びもいろいろあったが今ようやく出口が見えてきた。私にとっては仕事の意義を理解しつつも、束縛の多い長いトンネルだったように思われる。トンネルの先には何があるのか、必ずしも光に満ちたところではないことは承知しているが、46年前の偶然の呪縛から一度抜け出てみるつもりだ。

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by nikikai_sapporo | 2013-06-04 10:37