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歯科医師が綴るコラム集やお知らせなど【二期会歯科クリニック】札幌市中央区北3条西2丁目 NC北専北3条ビル8F/TEL:011-251-2220


by nikikai_sapporo

コラム・4月号(第186回)/ Dr.池田高明【二期会歯科クリニック・札幌市中央区】

「珈琲のおいしさ」について考えてみる  

 珈琲は1日1杯、夕食後に飲むのを楽しみにしているのですが、「変数が多い飲み物」と思っています。「豆の種類・産地、栽培された国、地区、標高」、「精製法」、「焙煎度合い」、「抽出法」など、豆から一杯のカップに至るまでに多様な要素が味にかかわってきます。


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 普段は、3種類ほど個性が異なる豆を買っておき、その日の気分で豆を選んで、豆に応じた挽き方、淹れ方を考えながら楽しんでいます。
 過去に珈琲店で開催されている珈琲教室にいくつか参加し、ドリップ方法を教えていただきました。抽出器具や豆の精製法の違いにより味わいが変わることも実際に飲み比べることで体験することできました。
 最近は、「you tube」でもドリップ方法や珈琲のさまざまな情報を学べるので、見たりすることもあります。

 ちなみにワイン、日本酒、焼酎なども珈琲と同じように好きです。とくに焼酎は芋、麦、米、黒糖など種類も多いですし、ソーダ割り、水割り、お湯割り、ロックと飲み方が自由で豊富なところが魅力だと思っています。

 話はそれましたが、今回は「珈琲のおいしさ」について、「味言葉」から「口腔生理学的」な観点まで、すこし幅を広げて考えていきたいと思います。
 珈琲に興味、関心がある方は読んでいただければ幸いです。

 【珈琲の美味しさを伝える「味言葉」について】

 日本で用いられる「珈琲の味言葉」では、「焙煎した」、「香ばしい香り」と「まろやかな」、「すっきりした苦味」、「コク」などの語彙が上位にランクインするといわれています。


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 珈琲の味言葉の主役は「焙煎した」、「香ばしい」などという「香り」系の言葉です。
 一方、「味」系でコーヒーを代表する味言葉は「苦味」に関するものです。「苦い」は美味しそうなイメージから遠い語彙ですが、コーヒーでは「まろやかな」、「すっきりとした」という美味しそうな言葉が付く表現が受け入れられていて、多くの人が苦味を美味しいと感じているようです。
 「酸味」に関する表現も同様です。「コーヒーの美味しさ」は「香ばしさと苦味を中心に酸味その他の様々な要素が渾然一体となって生まれる複雑な美味しさ」と言えます。

 海外では「味」は「苦味」、「香りは「煙っぽい」、「焦げたチョコレート」の順に用いる頻度が高くなったという報告があります。日本より香りの表現は具体的ですが、実は「香ばしい」という言葉は日本と韓国にありますが、大半の言語にはぴったり当てはまる 言葉がないようです。そのぶん欧米では「香り」を色々なものに例える表現が増えるようです。 また「まろやかな苦味」、「すっきりした酸味」など味質を修飾した表現の多さも日本特有で、欧米では「味」も「香り」と同様に比喩的な表現が多いとのことです。

 コーヒー業界では日本では珈琲の「味」を、欧米では「香り」を重視すると言われているのですが、それはこうした言語の違いも関係しているのかもしれません。
 ただバリスタなどの香味鑑定を行うプロたちは、ワインにおけるソムリエと同様、遥かに語彙が豊富です。今は、使う語彙については、「フレーバーホイール」の普及によってアメリカ式が世界標準になっています。


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 【「美味しい苦味」という矛盾について】

 一部の人が「苦い」という表現を避けたとしても珈琲の味の中核が「苦味」であるということは動かしがたい事実です。苦味においしさを見出す例は、珈琲以外にもビールやグレープフルーツなど数多く見られ、普遍的な現象です。

 子供の頃は苦味を嫌う傾向があっても、大人になるとその美味しさを見出すようになる経験をされている方は多いと思います。
 驚いたのは、子供も大人も苦味を感じる能力は大差がないらしく、大人になるまでの食体験の中からその食品が安全だと学習することで平気になり、味の変化の一つとして楽しむようになるといったことです。
 歴史的にも、最初に珈琲を飲んだ人類にとって、珈琲は最初美味しいものではなかったようです。普及するにつれ、次第に美味しいと認識されるようになってきたとのことでした。
 こうしたことから、苦味の美味しさが成立するためには、飲む人の経験や学習、社会的、文化的な受容、ほどほどの苦味の強さ、苦味の種類や質感といった要因が関わってくると考えられます。    

 【「味覚の生理学」について】

 口腔内には「味蕾」という器官があります。一つの「味蕾」には100個ほどの「味細胞」という、それぞれが基本5味(甘み、旨味、苦味、酸味、塩味)のどれか一つに特化した異なる細胞の集団で構成されています。


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 味細胞の表面には「味覚受容体」というタンパク質が発現していて、どの受容体が発現するかで、担当する基本味が決まります。「甘み」、「旨味」は受容体はそれぞれ1種類ずつ存在し、「タイプ1受容体」と呼ばれています。
 苦味受容体は「タイプ2」と呼ばれ、ヒトでは20種類の遺伝子がみつかっています。苦味だけ種類が多いのは、それぞれが複数の異なる化学物質を感知することで自然界の多種多様な毒に対処するためだと考えられています。実際自然界に存在する「苦味」物質の種類は、数百種に及び、「甘み」、「旨味」の数十倍に上ります。

 一方「酸味」と「塩味」の受容体は「イオンチャネル」だと考えられており、塩分濃度が高くなると塩味だけでなく、苦味、酸味細胞も活性化され、不快な味として伝えるようです。


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 また「苦味の質」は受容体の種類だけで決まるわけではなく、「すっきりした苦味」などの質感には味物質自体が口腔内にどれだけの時間止まるかという持続性も関係しています。これには唾液の「洗浄作用」が関係しています。物を食べると唾液が分泌され、受容体から味物質を洗い流されてリセットされます。口腔内から味物質が消失するスピードは、物質ごとに異なり基本的には分子量が小さくて親水性が高い分子ほど速やかに流出すると考えられます。このような「味物質の口腔内のダイナミクス」も、珈琲の美味しさに深く関与していると思われます。
 口の中から味物質がゆっくり消えていくとき、実際の液体がもつ以上の粘性を感じますし、逆に素早く失われる時は粘度が弱いと感じます。苦味がスムーズに流れていく感覚から重厚さと滑らかさを感じることができます。

 【「香りと美味しさ」について】

 口腔から鼻腔に流れる空気の匂いを感じることは、味の構成要素になります。
 これは「嗅覚」が「味覚」と混同される「共感覚」の一つです。味を認識するには味覚以上にこのことが重要だとすら言われています。風邪などで鼻が詰まった状態では、味を感じなくなる経験は誰しもあると思います。


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 「ホットコーヒー」は液体温度が体温よりも高いぶん、吸い込んだ香りと口に含んだ後の香りで大きな感覚は出ません。(「アイスコーヒー」の場合も熱湯で抽出した後で冷やすので、違いはそれほどでません。)
 一方、低温のまま抽出するマイルドな口当たりが特徴の「水出し珈琲」は、口に含むまで香りはさほど感じませんが、口に含んだ後に、一気に香りが広がる感覚があると思います。
 夏はよくこの「水出しコーヒー」が好きで家で飲みますし、スタ−バックスコーヒーの「コールドブリュー」(水出しコーヒー)は本当に美味しくてオススメです。


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  【「薬理的な美味しさ」について】

 「カフェイン」は「ドパミン」を受け取る神経細胞の働きを抑制する「アデノシン受容体」を抑制します。つまり「抑制の抑制」によって「気分を高揚させる」のに加え、「覚醒作用」などがあるといわれています。
 この高揚感が、普段は味わえない「トランス状態」になることも、人は古くから楽しみの一つとして受け入れてきました。また脳の「報酬系」を刺激するため、しばらくするとまた欲しくなり常用するようになります。
 ちなみにカフェインは嗜好品の中では比較的依存性が小さい部類であり、医学的社会的な問題になるケースはアルコールや喫煙に比べると稀といわれています。適量の摂取を心がけていきたいです。


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 【最後に】

 珈琲の美味しさには、本当に色々な要素が複雑に絡み合っているのだと思います。
 そのため「良い珈琲」は「欠点豆を除いた良質な豆を、適正に焙煎し、新鮮なうちに正しく抽出された珈琲」と定義されますが、「美味しい珈琲」は人それぞれで定義できないと思います。
 <「良い珈琲」であっても、実際に飲む人の嗜好によって必ずしも「美味しい珈琲」になるとは限らないが、「悪い珈琲」は必ず「まずい珈琲」になる。>
 これは、1980年代に日本の珈琲業界で提唱された考え方です。
  現在では「嗜好と品質を区別する」ことは、食品会社の品質管理部門などでは基本的な考えですが、1980年代から消費者の様々な嗜好を尊重する姿勢が日本の珈琲業界には広がっていたようです。

 10年前などに比べ、今は「スペシャルティー珈琲」などに代表されるような個性豊かな豆が手に入りやすくなってきています。「味覚の生理学」などについて普段考えながら飲むことはありませんが、生産者の方、コーヒーショップの方々に感謝しながら、これからも珈琲を美味しくいただいていきたいと思っています。


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by nikikai_sapporo | 2023-04-01 00:00 | Dr.池田高明