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歯科医師が綴るコラム集やお知らせなど【二期会歯科クリニック】札幌市中央区北3条西2丁目 NC北専北3条ビル8F/TEL:011-251-2220


by nikikai_sapporo

コラム・5月号(第43回)/Dr.門脇 繁 【二期会歯科クリニック・札幌市中央区】

<1995年~Retrospective>

 先日ある珍しい人物からメールが届いた。彼女は高校、大学歯学部、そして大学医局の後輩である。
「1995年の高校の同窓会誌をお持ちの方の心当たりはありませんか?」
 彼女は高校の同窓会幹事期を今年迎え、同窓会事務局のお手伝いをしているそうだ。
1995年阪神淡路大震災が起こった年の会誌の内容を知りたいのだが、事務局にはその年だけ欠落しているらしい。ちょうど、私自身が持っていたのでその年の会誌を貸し出すことになった。ちらちらと会誌の中身を見て、何故この年の会誌だけが同窓会事務局に欠落しているかがすぐに判った。

1995年~我らが母校の創立100周年の年だったからである。

いつもは多く印刷しすぎて余ってしまうことが多いのだが、この年に限っては記念に持ち出していった関係者が多数いたのだろう。

そして、私の想いは1995年へと飛んでいった。

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 1995年1月、あの阪神淡路大震災が起こった。
 まだ今のようなインターネットの時代じゃなかった。YouTubeもTwitterも無かった。情報はもっぱらテレビやラジオからだった。その日の朝、二期会の医局では「関西で大きな地震があったようだね。」程度の認識で、昼休みには「詳しくは判らないけど、どエラいことになっているようだ。」となり、うちに帰ってから見たテレビでその惨憺たる有様を知ることとなった。
 以下は、現在、関西の大学に通う私の娘から聞いた話である。
クラブの先輩達と一緒の車の中での会話。運転していたのはある先輩のお父さんで、高速道路を走っていたときに彼が言ったそうだ。
「ここの道路がね、阪神淡路大震災でちょん切れたんだよ。」
「次の大地震は関西じゃない場所で起こると思うけど、いつになるだろう。40年後かもしれないし、明日かもしれない。」
その会話が交わされたのは、今年2011年3月10日の夕暮れのことだったそうだ。

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 1995年3月、あのオウム真理教による地下鉄サリン事件が起こった。
 確か日曜日と祝日に挟まれた月曜日の朝の通勤時間に事件は起こった。私がそのニュースの第一報をテレビで観たのは、北大の口腔外科の医局だった記憶がある。そのころ私は口腔外科の認定医(現在の専門医)取得のための書類(自分が担当した手術所見や入院患者記録のまとめなど)作製に忙しく、しばしば二期会歯科から出身医局に出向いて先輩や教授に指導を受けていたのである。テレビを見ていても、何がどう起こったのか良く理解できなかった。しかし、この事件が松本サリン事件や弁護士拉致殺害事件などと結びつき、オウム真理教という団体の実態が判ってくるにつれ、背筋の凍る思いがしたのを憶えている。こうした一連のテロ事件は、決して外部(外国)からの攻撃ではなく、バブル経済に酔いつぶれた日本の一部分がメルトダウンし、その結果生じた閉塞集団が自己免疫疾患のメカニズムの如く「日本という自己」を攻撃したものであった。そして 一連のテロ実行犯達は、まさしく自分と同世代(当時30歳代)の各分野でのエリート集団だった。とりわけその事実が哀しく、衝撃的であった。 今から思えば、これはかつて日本が経験したことの無いようなテロ事件であったし、これはその後日本社会が変質していくターニングポイントだったと考えて良いのではないだろうか。

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 15年の時が流れ、劇作家・野田秀樹は2010年「ザ・キャラクター」という芝居で地下鉄サリン事件をとりあげた。その後「表に出ろいっ!」「南へ」の二作と続き〜『信じること』を現代に問う三部作〜を完成させた。私は「ザ・キャラクター」は東京芸術劇場で観劇し、「表に出ろいっ!」はテレビで観た。ここに描かれた「信じられるもの」「日常を忘れて心酔できるもの」はあくまで「他の誰か」が演出したエンターテインメントあるいはフィクションなのである。しかし登場人物達は(おそらくオウムの信者らも)現実(自己)とそれら対象との距離感を失い、客観性が上手い具合に消された世界〜麻薬的で排他的で盲目的な世界〜に嵌り込んでいくのである。これらの芝居(物語)は「(村上春樹の言葉を借りれば<注>)フィクションと実際の現実との間に引かれている一線をうまくあぶり出せなくなった」人々が起こした惨劇であり、悲劇なのである。その惨劇は1995年に起こり、悲劇は今も尚続いているのである。三作目の「南へ」は今年の三月の連休に東京に観に行く予定を立てていたが、今回の震災で断念した次第である。誠に残念。

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 1995年の8月15日は終戦(敗戦)50周年であった。
 こういう意味においても、この年は日本にとって区切りの年だったのである。そして村山談話である。村山さんは阪神淡路大震災の際に初動対応の鈍さで批判されたが、この談話で歴史に残る総理となった。この談話内容は色々と論争の的にはなっているが、一応戦後50年を総括する真摯な態度が貫かれたものだと私は評価している。その後の首相達もこの談話を基本的に踏襲しているわけだしね。

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 そして1995年12月28日に「映画」は満100歳をむかえた。
 映画のはじまりをどう考えるかは諸説(1892年のキネトグラフ〜ロールフィルムに連続写真を撮影する装置、1894年のキネトスコープ〜一人だけが覗き穴から動画フィルムを見る装置で、 エジソンの発明の一つ)がある。しかし一般的には、フランスのリュミエール兄弟が1895年2月に「シネマトグラフ」を開発し、その夏に様々なドキュメントを撮影して写真協会などの学会・総会などで上映も行い、ついに12月28日にパリのあるカフェの地下に観客を集めて有料上映した、その日、そのときが「映画の誕生」と言われている。おそらくこの観点から「撮影、音響、編集などが完了した時点ではまだ単なる『フィルム』であるが、そのフィルムに光が当てられ、白いスクリーンに映し出された映像が多くの人々の眼に飛び込んできたときに初めて『映画』となる」という解釈が成立するのである。
 私は1975年から自分独自の映画ベスト10を選出し、現在に至っている。1995年の私のベストワン映画は何かというと・・「レオン」である。15年経った今でも、文句なしだな!(その年、一般的には「ショーシャンクの空に」がベストに選ばれる傾向にあった。私はこの映画は少々感動強要の臭みが気に入らなかった。)登場人物の個性と心情をしっかり描き、アクションとサスペンスのキレも最高。ジャン・レノ頂点の演技であり、ゲイリー・オールドマンの怪優としての開花であり、リュック・ベッソン監督の最後の輝きであった(近年の彼の監督作品には失望を通り越して、怒りを感じる!)。スティングが唄うテーマ曲「The Shape of My Heart」はスタンダードナンバーとして歌い継がれている。そして、何よりも衝撃的なナタリー・ポートマンのデビューである。彼女は、私を含めた、全世界の「オッさん」の心を鷲づかみにした。その後、派手さは無いものの着実にキャリアを積み上げ、ついに今年のアカデミー主演女優賞を「ブラック・スワン」で獲得するに至っている。実に、めでたい!めでたい!

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 映画が100歳の誕生日を迎えた翌日、私ら夫婦は結婚10周年を迎えた。
 
 1995年はそんな年だった。

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 最近、泣ける唄がある。食道癌と闘い、今年復帰を果たした桑田佳祐の新曲「月光の聖者達(ミスター・ムーンライト)」である。

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・・・今はこうして大人同士になって失くした夢もある
   時代(とき)は移ろう
   この日本(くに)も変わったよ、知らぬ間に・・・・

・・・現在(いま)がどんなにやるせなくても
   明日(あす)は今日より素晴らしい
   月はいざよう秋の空
   月光の聖者達(Mr. Moonlight) Come again, please.
   もう一度、抱きしめたい・・・・・

 メロディは相も変わらぬ「桑田節」であるが、3.11後を生きていく日本人の一人として、このような歌詞を切々と唄われると身体の芯が熱くなるのである。特に1995年を回顧しつつこの曲を聴くと、「 明日(あす)は今日より素晴らしい」と言い切らねば前に進めない切なさが、より一層心にしみるのである。

<注>村上春樹:雑文集「アンダーグラウンド」をめぐって p204-205


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by nikikai_sapporo | 2011-05-03 18:15 | Dr.門脇 繁